- AIに戦略を立てさせて、何一つ決まらなかった
- 「戦略的に考えて」は効かない。AIに効いた指示の書き方
- AIは「それっぽい論理」なら作れる。向きは間違えるがいまここ
- AIはリサーチ屋にはなれる。コンサルにはまだなれない
既製スキルとの違い
先に、身も蓋もない前提を置いておく。Claude Codeには、「調査して」「競合を分析して」で動く既製のスキルがいくつもある。find-skills に聞けば、コンサル調査に使えるスキルもすぐ見つかって、インストールするだけで動く。だったら自前で用意しなくてもいいのでは、と思うかもしれない。
半分はそのとおりだ。既製スキルは、誰の案件にも当てはまる一般解として、出発点にはなる。ただし一般解であるがゆえに、あなたの事業の固有の落とし穴は知らない。この連載でやっているのは、その一般解を土台にしつつ、自社でAIがやらかした失敗を1つずつ検査項目として書き足していく作業だ。今回出てくる「向きの取り違え」も、既製のまま使っていたら素通りしていた類の話になる。
そして、足したルールはその案件で消えない。グローバルのCLAUDE.mdや、使い回すスキルに書いておけば、次の案件でも効く。使うほど、AIは自分の判断基準や仕事のクセに寄っていく。既製のまま使うのと、育てて自分好みにしていくのの差は、この積み重ねに出る。
前回までで、Claude Codeに戦略コンサル調査のスキルを仕込み、会社情報をナレッジファイルとして渡した。準備はここまで。あとは書かせるだけだった。
結果から言うと、初稿は前回までの想定を上回る出来だった。ただし完成品ではない。使えるところまで持っていくのに、3回のフィードバックが要った。今回はその往復の中身を書く。ここが連載で一番泥臭く、たぶん一番使える部分になる。
1回目に残った甘さ
最初の出力は、素のFable 5が出したものとは比較にならなかった。市場規模に数字が入り、競合分析にデータが付き、立てた仮説がどうなったかを追跡できるようになっている。第1回で挙げた6つの穴は、ほぼ埋まっていた。
それでも、読み込むと薄い箇所が残る。AI関連のリスク分析が浅く、マーケティング戦略の具体性も足りない。「何をやるか」は書いてあるが「どうやるか」で止まっている。ここは追加の指示で埋まる類の不足だった。
2回目の取り違え
2回目のレポートで、もっと厄介なものを見つけた。「既存の汎用ツールがキャスト業態にフィットしない」という事実が、逆風の欄に書かれていた。
これは逆風ではない。既存製品が合っていないなら、そこが空いているということで、参入する側にとっては追い風だろう。同じ事実が、立場によって正反対の意味になる。AIはこれを取り違えた。
興味深いのは、レポートの論理構造自体は破綻していなかったことだ。「フィットしない → 市場が難しい → リスク」という流れは、文章として読めば通っている。通っているが、当事者から見ると意味が逆になる。
AIは論理の「それっぽさ」を組み立てるのは得意だ。一方で、その論理がビジネス文脈で正しい向きを向いているかは判定できない。追い風か逆風かは、その事業の当事者でなければ決められないからだろう。
だから承認ゲートが要る。前回、論点設計のあとに人間が止まる場所を作ったと書いたが、必要な理由がここで実地に出てきた形になる。
チェックリストへの1行追記
この取り違えを見つけたあと、レポートを直すのと同時に、スキルのチェックリストに1行足した。ここで「追い風と逆風を間違えるな」と書いても、その一件しか直らない。個別のミスを個別に禁止していってもきりがない。だから一段だけ抽象度を上げて、クラスごと捕まえる形にした。
同じ事実でも、立場が変われば意味は反転する。各ファクトの解釈が、当事者(自社)の立場から見て正しい向きを向いているか、一般論の推論より現場の読みを優先して確認する。
「追い風か逆風か」は、この一般則の一例でしかない。機会と脅威、強みと弱み、コストと投資。向きが入れ替わる対はいくらでもある。効いたのは、特定のミスを名指しで禁止したことではなく、検査できる形の一般則を1つ足したことだ。前回の「判定できるルールは効く」が、そのまま当てはまっている。「もっと注意深く分析しろ」と書いても、たぶん何も変わらなかった。
この作業には副産物がある。ダメ出しをするたび、チェックリストが1行ずつ育つ。今回のレポートより、そのチェックリストのほうが資産としては大きいかもしれない。使い回しが効くのは後者のほうだ。
3回目に疑わせた前提
3回目は、細部ではなくレポートの前提に踏み込んだ。指摘したのは3点になる。
- 前提が現実的か。「中小店舗が生成AIで勤怠管理ツールを内製する」と書かれていた。コンカフェのオーナーが労務管理ツールを自作する図は、正直あまり想像できない
- 読み手に合っているか。専門用語に注釈がない。経営者が読む文書なら、そこは崩すべきだった
- 視点が1つしかない。想定される反論を、複数の立場から検証したほうがいい
3点目については、少し変わったやり方を試した。架空の有識者4人によるディスカッション文書を別に作らせている。SaaS戦略コンサルタント、コンカフェのオーナー、AI SaaSのCEO、中小企業診断士の4人が、6つの論点について議論する形式にした。
これが思ったより効いた。単一の視点で書かれたレポートでは見えなかった盲点が、何箇所か浮かび上がってくる。同じモデルに書かせているのに、立場を割り当てるだけで出てくる論点が変わるのは、少し不思議ではある。
品質改善が起きた条件
3回の往復で得たものを1つに絞るなら、AIの品質改善は「もっと頑張れ」では起きないということだ。起きるのは、チェック項目を1行追記したときだった。人間の組織でも似た話ではあるが。
もう1つ。取り違えを見つけられたのは、こちらが当事者だったからだ。当事者でなければ、あの逆風の欄はたぶんそのまま通っていた。レポートの価値は中身だけでなく、3回ダメ出しできたという過程のほうにもある。
では、この往復はモデルが賢くなれば要らなくなるのか。取り違えの原因が知識量ではなく当事者性にあるなら、性能の向上だけでは埋まらないことになる。最終回で、AIがどこまで代わりになったのかを整理して結論を出す。