- AIに戦略を立てさせて、何一つ決まらなかったいまここ
- 「戦略的に考えて」は効かない。AIに効いた指示の書き方
- AIは「それっぽい論理」なら作れる。向きは間違えるが
- AIはリサーチ屋にはなれる。コンサルにはまだなれない
「AIでコンサルは要らなくなる」という議論をよく見かける。賛成の意見も反対の意見も読んだが、どれも他人のケースの話だった。自分の手元で確かめたほうが早い。そう思って、いま実際に社内で検討している新規事業のテーマを、そのまま素のClaude Fable 5に投げてみた。
出てきたレポートの結語は「今後の動向に注視」だった。
この連載では、そこから始めて、Claude Codeにコンサルの「型」を仕込み、3回ダメ出しして、意思決定に使えるところまで持っていった過程を4回に分けて書く。第1回は素のAIの実力、第2回は型の作り方、第3回はダメ出しの中身、第4回で結論を出す。先に言っておくと、結論は「AIはコンサルの代わりになる/ならない」のどちらでもない。
前提ファイルなしの一行プロンプト
条件は素のまま。CLAUDE.mdもスキルも会社情報ファイルも渡していない。前提を何も与えなかったらどこまで書けるのか、下限を知りたかったからだ。
「合同会社データローがシフト管理・勤怠管理のサービスを出して利益を上げるにはどうすべきか、戦略を立ててください。データローは東京の小規模企業で、飲食店を複数運営しています。」
返ってきたのは、体裁の整った戦略レポートだった。見出しがあり、章立てがあり、それらしい構成になっている。読む前の印象は悪くない。問題は中身のほうにあった。
レポートに見つかった6つの穴
- 市場規模の数字がない。「年々成長しています」とだけ書かれていて、いくらの市場に入ろうとしているのかわからない
- 競合は名前だけ。価格帯もシェアも出てこないので、どこと戦うのか像を結ばない
- 「飲食業界に特化」の根拠がない。なぜ自社にそれができるのか、アセットの棚卸しが一切ない
- 収益シミュレーションが存在しない。「サブスクリプション型」と書いてあるだけで、単価も想定顧客数もない
- 2026年のAI動向への言及がゼロ。ソフトウェアの作り方が変わっている最中に、その話が出てこない
- 結語が「今後の動向に注視」。何の意思決定にも使えない
断っておくと、これはモデルの性能を測る実験ではない。プロンプト一行で、コンテキストを何も渡していないのだから、この結果はある意味で当然だろう。ただ「AIに戦略を書かせる」と言ったとき、多くの人がやるのはたぶんこれに近い。だから下限として意味がある。
情報不足と「決めない」態度の差
6つのうち、実務的に一番痛いのは最後だと思う。市場規模が抜けているのは、追加で聞けば埋まる。競合の価格も調べさせればいい。しかし「今後の動向に注視」で終わるレポートは、追加で何を聞けばいいのかすら教えてくれない。
戦略の文書は、読んだ人が何かを決められるから価値がある。やるのかやらないのか。やるならどのセグメントから入るのか。いくらまで突っ込んで、どこで撤退するか。そこに踏み込まない文書は、要約であって戦略ではない。
情報が足りないレポートは直せる。「決めない」という態度で書かれたレポートは直しようがない。足りないのは情報量ではなく、意思決定に踏み込むという前提のほうだった。
コンサル業務の3層とAIの守備範囲
ここで少し引いて考える。コンサルティングの仕事は、大まかに3つの層に分けられる。層ごとにAIとの相性がはっきり違う。
| 層 | 中身 | AIで置き換わるか |
|---|---|---|
| 情報収集 | 市場データ、競合調査、資料の読み込み | ほぼ置き換わる |
| 構造化・分析 | 整理、仮説構築、定量分析 | 型を与えれば動く |
| 論点設定 | 何を解くべきかの定義 | まだ難しい |
Fable 5がつまずいたのは、真ん中の「構造化」だった。情報収集も足りていなかったが、それ以上に、集めたものを判断材料の形に組み直す型を持っていなかった。そして一番上の「論点設定」——そもそも何を解くのか——には、最初から手をつけていない。「戦略を立てて」と言われたので、戦略の形をしたものを出した。それだけの話ではある。
もっとも、コンサルのアウトプットの7割は「頭のいい人が常識を構造化しただけ」だろう。だからAIに置き換わる余地は大きい。むしろ、AIがコンサルを殺すかどうかより、コンサルに殺されるべき仕事がまだ多すぎることの方が問題ではないか。型にはまる仕事は、とっくに自動化されていてよかった。
AIの能力ではなく指示設計の問題
素のAIに「戦略を立てて」と投げるのは、新卒に「よしなにやっておいて」と言うのとほとんど同じだ。返ってきたものが期待外れだったとして、それをAIの能力の話にするのは早い。指示の設計の問題である可能性のほうが高い。
実際、同じClaudeでも、渡すものを変えたら出力は別物になった。では、指示を設計するとは具体的に何をすることなのか。「もっと戦略的に考えて」と書き足すことではない。実際に試すと、効いたものと効かなかったものがはっきり分かれた。第2回はその中身を書く。